『芝浜』という古典落語があります。
三遊亭圓朝の作と言われていますが真偽不明。3代目桂三木助の改作が有名です。
そもそも「芝浜」とは、江戸時代の入間川のを挟んだ東海道の芝橋から薩摩藩邸までの間にあった海岸の網干場だったところで、現在の港区芝4丁目の第一京浜の南側にあたります。
入間川(いりあいがわ)というのは、現在は埋め立て地。そして全国で2番めに短い国道の130号です。
あらすじ
天秤棒一本で行商をしている魚屋の勝五郎という人がいました。
彼は、腕はいいものの酒好き。
で、仕事でも飲む事にかまけて売り物の魚を腐らせるなど失敗が続きます。
次第に客の信用と働く意欲を失い、借金も嵩んで自堕落な生活に陥っていきます。
その日も女房に朝早く叩き起こされました。
嫌々ながら芝の魚市場に仕入れに向かいます。
しかし時間が早すぎたため市場はまだ開いていない。
誰もいない夜明けの浜辺で顔を洗います。
煙管を吹かしているうちも、足元の海中に沈んだ革の財布を見つけました。
開けてみると中には大金が入ってました。
勝五郎は「これで一生遊んで暮らせる」と有頂天。
自宅に飛んで帰り、さっそく飲み仲間を集めて大酒を呑みます。
翌日、二日酔いで起き出した勝五郎に向かって女房が言います。
「こんなに呑んで支払いをどうする気なの?」
勝五郎は「昨日拾った財布の金で払えばいいだろ」と答えます。
が、女房は、
「そんな物は知らない、お前さんが金欲しさのあまりに酔ったまぎれの夢に見たんじゃないの?」
つくづく身の上を考え直した勝五郎は「これじゃいけねえ」と一念発起、酒を断って真面目に働き始めます。
そうして仕事に打ち込むうちに久しく忘れていた商いの楽しさを思い出します。
3年後には表通りにいっぱしの店を構える事ができました。
借金を完済して生活も安定し、身代も増えました。
そしてその年の大晦日の晩のことです。
勝五郎は妻に対して献身を労い、頭を下げます。
すると女房は、3年前の財布の件について告白を始め、真相を勝五郎に話します。
あの日、勝五郎から拾った大金を見せられた女房は困惑しました。
十両盗めば首が飛ぶといわれた当時、横領が露見すれば死罪です。
長屋の大家と相談した結果、大家は財布を拾得物として役所に届けました。
女房は勝五郎の泥酔に乗じて「財布なんて最初から拾ってない」と言いくるめる事にしました。
時が経っても落とし主が現れなかった。
役所から拾い主の勝五郎に財布の金が下げ渡されました。
しかし女房はその事で亭主が元の木阿弥になる不安から今まで言い出せずにいました。
彼の「客が自分の売る魚をおいしく食べてくれるのが心底嬉しい」という言葉にようやく「今のこの人なら大丈夫だ」と安堵します。
そして真相を話す事を決意したといいます。
事実を知り、例の財布を見せられた勝五郎はしかし女房を責める事はありませんでした。
道を踏み外しそうになった自分を真人間へと立ち直らせてくれた女房の機転に強く感謝します。
そして女房は懸命に頑張ってきた夫を労い、「久し振りに酒でも」と勧めます。
始めは拒んだ勝五郎でした
が、やがておずおずと酒をついだ湯呑みを手にします。
そして一旦湯呑みを口元に運びますが、不意に手を止めます。
「よそう。また夢になるといけねえ」と。